アメリカでも、以前は子供が将来成功するかどうかは知性(または知識量)で決まると考えられてきました。しかし子供たちの追跡調査をすると、学力があっても伸びない子供や、最初はさほどでもないのに、あとで伸びる子供が出てきます。
様々な調査で、子供たちの人生を決めているのは、ある時点の知識量ではなく、数字に表れない心理的な特質・性格である、ということがわかってきました。
どんな性質が子供に必要なのか、どのように育てればいいのか、それがこの本のテーマです。
その中で気になった、子供時代の影響の話を紹介します。
■子供の頃の逆境が、健康に影響する
1995年、カリフォルニアの保険団体が、健康診断を受けた人に、子供時代について尋ねるアンケートを行いました。子供時代の「暴力、性的虐待、身体的・感情的ネグレクト、両親の離婚・家族に依存症がいる…」など10項目で、当てはまるものに印をつけて、ポイント化するという調査。
そのポイントと、現在の健康状態を比べると、
子供の頃に辛い環境にいた人ほど、健康状態が悪い、
というはっきりした相関関係が出たそうです。具体的には、逆境度が4点以上の人は、0点の人と比べて
・喫煙率と、がん、心臓病、肝臓病の割合が2倍
・肺気腫、気管支炎の割合が4倍
・アルコール依存が7倍
影響は自殺の数にまで及んでいて、6点を超えると自殺未遂の経験が30倍だったそうです。すでに自殺してしまった人は回答できないので、自殺者を入れたらもっと増えるかもしれません。
■子供時代のストレスは、学習能力にも悪影響
カリフォルニアの実験を知った、サンフランシスコの医師は、先ほどの逆境調査を参考に、学習や行動への影響を見ました。
・逆境度が0点で、学習・行動の問題が見られる子供は 3%
・逆境度が4点以上では学習・行動の問題が見られる子供が 51%
例えるなら、クラスの中でたった一人と、クラスの半分。恐ろしいほどの差です。
ストレスの多い環境で育った子供は、集中したり、じっと座っていたり、教師の指示に従うのが難しかったとのこと。強いストレスが、前頭前野の働きを阻害するものと考えられています。
コーネル大学の研究者は、子供のワーキングメモリ(一時記憶)と、ストレスとの関係を調査しました。
ワーキングメモリとは、作業中の手順を覚えていたり、計算をする間に桁上りを覚えていたりするのに使う短期記憶能力。学習や仕事で重要な働きをします。
そして、やはりストレスが高い環境の子供ほど、ワーキングメモリ(一時記憶)の機能が低いという結果でした。
著者は、こうした脳の変化は、ストレスホルモンが及ぼす悪影響によるものではないかと考えています(神経細胞が、強すぎる反応に耐えられず死滅するという説もあります)。
■以下、感想
著者は、子供を将来の成功へ導く第一歩は、幼少期に極端なストレスから守ることである、と結論づけています。
辛い子供時代を送った人ほど、その後の人生も辛い。やりきれない結果ではあります。(そういえば以前、犯罪者の幼少期に、虐待や過度のスパルタ教育が多いことについて書きました)。
子供への暴力や虐待は論外としても、災害、事故、いじめ、親族の死など、親が努力しても避けられないトラウマもあります。両親の不和などというのも、一種避けようのない災厄かも。
それでは、強いストレスを受けてしまった子供は、大きなハンデを背負って生きていくしかないのか。
著者は、親がきちんと向き合い関わることで、子供を逆境の影響から助けることができると述べています。
詳しくは次回に。
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